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vol.47 ベストナイン――、満票にふさわしい人が満票でなかった??

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    柳本 元晴 Yanamoto Motoharu
    フリー・スポーツ・ジャーナリスト
    立教大学卒業/週刊ベースボール元編集長

    広島県出身。1982年に(株)ベースボール・マガジン社に入社。週刊ベースボール編集部にて、プロ野球、アマチュア野球などを中心に編集記者を務める。91年に水泳専門誌(スイミング・マガジン)の編集長に就任。92年バルセロナ、96年アトランタ五輪を現地にて取材。98年、創刊されたワールド・サッカーマガジン誌の初代編集長を務めたのち、99年3月から約10年間にわたって週刊ベースボール編集長を務める。2014年1月に(株)ベースボール・マガジン社を退社。フリーとしての活動を始める。2012年からは東京六大学野球連盟の公式記録員を務めている。

    その顔触れに違和感はないが、投票結果には、ある

     11月24日、プロ野球のベストナインが発表された。その顔触れは、だいたい予想通りで、選ばれた19人(パはDHがあるため「ナイン」ではない)に驚きはなかったが、驚いたのは、「満票」での選出が、秋山(埼玉西武)ただ一人だったことだ。
     その秋山本人が「ギータ(柳田)じゃないの?」と、聞き返したくらいだから、やはり選手の中にも、違和感があるのだと思う。
     つまり、トリプル3(打率3割、30本塁打、30盗塁)をクリアして、守備面でも再三の好守備、好送球を見せていた柳田(福岡ソフトバンク)は、選ばれはしたが、満票ではなかった。“トリプル3つながり”で言えば、セ・リーグの二塁手で選出された山田(東京ヤクルト)も満票ではなかった。

     とはいっても、こちらの山田の方は、ほんの少しであるならば、こうなる可能性はあった。それは「二塁手」という一つのポジションだから。中には「二塁手は打撃よりも守備を重要視されるポジション」とか、妙なこだわりを持って、投票した人がいただろうという想像は容易にできる。そういう方たちはきっと、「ゴールデングラブ賞」の存在をあえて、見ないふりをしているのだろうとしか思えないが、たぶん、そんな理由付けでもなければ、山田を選ばない理由が見つからない。
     
    ただ、柳田は、山田のケースとは異なる。「外野手」は「左翼手」「中堅手」「右翼手」とそれぞれ一つずつのポジションを選ぶのではなく、「外野手」として3人を選ぶのである。
     つまり、「中堅手」を選ぶために、最多安打を記録した秋山と、トリプル3(首位打者も)を記録した柳田と迷って、秋山に投票したため、柳田が漏れた、ということは起きないのである。
     だとしたら、なにが柳田を外す理由は何?
     個人的に嫌い?。ソフトバンクが強すぎて、きっと大勢選ばれるだろうからバランスをとった?。死球のためとは言え、最後に欠場したことが気に入らない?。
     そんな理由しか考えられないが、本当にそうだとしたら、むしろ滑稽としか思えない。ついでに言うと、「大勢選ばれる」と思ったソフトバンク勢は、結局この柳田と指名打者の李の2人だけということになっている。

    投票しなかった理由を聞いてみたいなぁ

     皆さん、ご存知だと思うが、このベストナインや最優秀選手などの投票は、新聞、放送、通信各社に所属しており、5年以上プロ野球を担当している者にのみ資格がある。
     今回の選出を受け、上記した秋山は「目の肥えた記者の方々が選んでくれた…」とコメントしたが、誤解を恐れずに言うと、残念ながら、みんながみんな「目の肥えた記者」ではない。
     極端なことを言うと、そういうメディアの仕事に従事しているが、たまたま配属がプロ野球の取材班であって、そもそもスポーツに詳しいわけではなかったという記者が少なからずいるのも事実だ。中には、ルールすらわかっていないという記者もいる。

     そういう人が、たまたま5年間担当していたからと言って、『目の肥えた記者』になっていると、言えるだろうか。
     できないことではあるが、もしも、私が以前の職場にいたなら、遊び半分で「柳田に投票しなかった記者に、その理由を聞く」という企画でも組んでみたいくらいだ。
     今は、交流戦とかあるので、他リーグの選手を生で見る機会もないことはないが、かつては、実際にセ・リーグの担当記者が、パ・リーグの試合を1試合も見たことがなく、しかし、資格を持っているので投票はする、ということがあった。
     ベストナインだと、打撃の要素が強く反映されるので、それらの数字を見ると、一応の評価、あるいは選出するにふさわしい数字を確認することができる。しかし、守備のベストナインと言われる「ゴールデングラブ」ではなかなかそうはいかない。単に守備率だけでも比較できないだろう。守備範囲の広さ、打球の難度……、数字に表れない「好守」の秘密がたくさんあるのである。
     それでも投票をする。見たことがない選手に投票をする。基準をうまく見つけられないために、イメージとか、ずっと獲得してきているからとか、打撃で数字を残しているからとか、そんな、本来選考の理由になりえないことが理由となって、選出されるということが少なからず、あったのである。
     個人的には、特に「ゴールデングラブ」については、今のような投票方式を止めて、選手間投票で決めるようにした方がいいのではないかと思うが、当の選手たちは、どう思っているのだろうか。

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