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vol.8 「負けられない戦い」に挑む日本代表

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    柳本 元晴 Yanamoto Motoharu
    フリー・スポーツ・ジャーナリスト
    立教大学卒業/週刊ベースボール元編集長

    広島県出身。1982年に(株)ベースボール・マガジン社に入社。週刊ベースボール編集部にて、プロ野球、アマチュア野球などを中心に編集記者を務める。91年に水泳専門誌(スイミング・マガジン)の編集長に就任。92年バルセロナ、96年アトランタ五輪を現地にて取材。98年、創刊されたワールド・サッカーマガジン誌の初代編集長を務めたのち、99年3月から約10年間にわたって週刊ベースボール編集長を務める。2014年1月に(株)ベースボール・マガジン社を退社。フリーとしての活動を始める。2012年からは東京六大学野球連盟の公式記録員を務めている。

    出ただけで満足している時代は終わった


    サッカーのワールドカップがブラジルで開催中だ。4年に一度のワールドカップは、オリンピック同様、あるいはオリンピックを上回ると言っていい、スポーツのビッグイベントと言って、だれも異論はないのではないか。
    27日まで、グループリーグの試合が連日続き、一日おいて29日からは決勝トーナメントが始まる。決勝は7月14日。いつか、いつの日にか、日本チームがこの決勝の舞台に立つ日が来ることを期待したいものだ。
    かつては、ワールドカップに出場することさえ、ままならなかった日本だが、98年のフランス大会に出場して以後は、自国開催の2002年を含め、5大会連続出場。今では、出場は当たり前、本大会でどこまで勝ち上がっていけるか、というのがチームにとってのテーマになっている。野球
    さすがに「優勝」となると、選手の何人かは口にはしているものの、実際のところ、我々メディアの側にいる人間が言うと、笑われる。現実的ではないと思うが、出ている以上は可能性がないわけではない。例えとして妥当かどうかは分からないが、「宝くじも買わなきゃ当たらない」のである。
    15日に行われた日本の初戦、コートジボアールとの一戦は、皆さんもご存知の通り、前半で先制点を挙げながら、後半立て続けにゴールを決められ1−2で逆転負けを喫した。戦術や選手交代のタイミングなど問題は少なからずあったと思うが、その敗因を語るのは、専門家にゆだねよう。さまざまなメディアで、いろいろな人が分析しているので、そちらを参考にしていただきたい。
    日本が属するグループCは、コロンビア、コートジボアール、ギリシャがいるわけだが、いずれも、各大陸、地域の「最強国」とは言いづらい。もちろん、ここに出てくる以上、弱いチームなどないのだが、総じて、難敵ではあるが、勝てない相手ではない、というサッカー関係者の見立てだった。
    「勝てない相手ではない」という見解が、いつの間にかエスカレートして「グループリーグ突破は確実」というムードになっていたような気がする。そんなに甘い話はないのにである。
    しかし、初戦の敗戦でそんな『あま〜い』ムードはどこかに吹っ飛んだ。どこかのテレビ局のキャッチフレーズではないが、これからのグループリーグの残り2戦はまさに「絶対に負けられない戦い」が続くのである。

    ポルトガルで見たギリシャの大番狂わせが今も脳裏に浮かぶ


    競馬日本時間では明後日(20日)の朝5時にキックオフとなるギリシャ戦に負けると、そこでグループリーグ敗退が決まる可能性がある。具体的に書くと、日本が負けて、コロンビアがコートジボアールに勝つと、コロンビア戦を前に、グループリーグ敗退が決まるのである。残り1戦で日本がコロンビアに勝ったとしても勝ち点は3。2国に勝って勝ち点を6にしたコロンビアは決勝進出決定。ギリシャ―コートジボアール戦は互いに日本に勝って、勝ち点3を有しているので、どちらかが勝つと勝ち点3がプラスされるし、あるいは引き分けでも勝ち点1が加わって、日本を上回る。
    ファンの多くは百も承知だろうが、まさに崖っぷちの戦い。それが20日朝のギリシャ戦なのである。
    そのギリシャ。今大会に出場しているヨーロッパのチームの中では、「最弱」という声が上がっている。グループリーグ初戦のコロンビア戦でもいいところなしで、0−3で敗れている。内容でいうなら、確かに日本よりもひどい。日本を応援する我々が、ギリシャならば勝てると「甘い夢」を見る気持ちはわからないでもない。
    ただ私には、ギリシャがそれほど楽に勝たせてくれる相手とは、どうしても思えないのである。
    実は、私は欧州最弱のはずのギリシャが起こした『大アップセット』を目の当たりにしている。プロフィールにもある通り、短い期間だったが、当時新創刊となった「ワールド・サッカー・マガジン」の編集長を務めたことがある。しかし、そのギリシャの、ある意味、奇跡ともいえる優勝を見たのはその時ではない。
    2004年、ポルトガルで開催された欧州選手権(ユーロ2004)を観戦する機会に恵まれたのだ。その時、優勝候補でもあった地元ポルトガルを決勝で下して、初の欧州制覇の栄冠を手にしたのがギリシャだったのだ。
    縁あって、某社のツアーに同行させていただいたのだが、今回もNHKのテレビ解説などでご活躍の木村和司さんや、辛口評論でおなじみのセルジオ越後さんなども一緒だった。
    それまで、大きな大会での優勝など一度もなかったギリシャは、その大会でも決して注目を集める存在ではなかったが、「堅守からの速攻、カウンター」を武器に優勝候補を撃破。ポルトガルの首都リスボンで行われた決勝でも、ルイス・フィーゴなど、世界的に有名な選手が主力の地元ポルトガルを下して、まさかまさかの優勝を果たしたのだ。
    その時のギリシャは、いわば『弱者の戦い』を見事に演じきった。スーパースターはいない。個の力で突破できる選手もいない。ドイツ人監督レーハーゲルの下、守り抜いた末に、攻め疲れた相手のスキをついて一気にカウンターを仕掛ける。これが見事にはまったのだ。
    ギリシャのサッカーは、欧州選手権の勝利以後、10年が経ち、監督がフェルナンド・サントスに代わった今も、このスタイルを踏襲している。さらに言えば、10年前の栄光を経験した選手が今回のチームにも2人、残っている。戦い方にはブレがない。
    日本が、初戦のコートジボアール戦のように、前半のうちからすでに足が止まった選手が多く出るような戦いをしていると、まさにこのギリシャの「堅守速攻」のかっこうの餌食となってしまうだろう。
    決定力不足を今もなお、ささやかれる日本にとっては、ギリシャの堅守をこじ開けることは、それほど簡単なことではないようにも思われる。
    おそらく――。1点をめぐる厳しい戦いになる。
    「負ければグループリーグ敗退の危機」は、初戦に敗れたギリシャも同じ。生き残るのは、日本か、ギリシャか――。

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