_コラム Vol.2

vol.2 ちょっと気になる野球のルール変更

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    柳本 元晴 Yanamoto Motoharu
    フリー・スポーツ・ジャーナリスト
    立教大学卒業/週刊ベースボール元編集長

    広島県出身。1982年に(株)ベースボール・マガジン社に入社。週刊ベースボール編集部にて、プロ野球、アマチュア野球などを中心に編集記者を務める。91年に水泳専門誌(スイミング・マガジン)の編集長に就任。92年バルセロナ、96年アトランタ五輪を現地にて取材。98年、創刊されたワールド・サッカーマガジン誌の初代編集長を務めたのち、99年3月から約10年間にわたって週刊ベースボール編集長を務める。2014年1月に(株)ベースボール・マガジン社を退社。フリーとしての活動を始める。2012年からは東京六大学野球連盟の公式記録員を務めている。

    気が付けば、来週からはセンバツが始まる


    3月も半ばに入ってくると、いよいよ、野球シーズンの到来を思わせる。2月のキャンプを終えた、プロ野球の各チームは、オープン戦で各地を転戦しながら、3月末のペナントレース開幕に向けて、調子を整えてくる。開幕ダッシュに向けて、結構大事な時期なのである。
    センバツ高校野球も、本日(3月14日)に組み合わせ抽選が終わり、1週間後の21日に開幕となる。このセンバツ高校野球を皮切りに、日本の野球シーズンの本格スタート。かつて、「春はセンバツから」とキャッチフレーズが使われていたが、我々のように、古くから野球に携わってきた人間にとっては、まさにセンバツの球音が、春を告げてくれるのだ、という実感がある。
    プロフィールにも書いてあるように、私は一昨年から、東京六大学野球の公式記録員を任じられている。そういう縁もあるので、本格的に野球シーズンに突入する前に、今年度の、ルールの変更点をご紹介しておきたいと思う。
    コアな野球ファンなら、当然ご存知のことも多いと思うので、「知ってるよ!」などと言わずに、あらためて、再確認ということで、お読みいただければ幸いです。
    小さな改正はいくつかあるのだけれど、一番のポイントは、投手の三塁へのけん制偽投が禁止になったことだと思う。これまでは、投手が投手プレートに足を付けたままで、偽投が許されなかったのは一塁のみで、二塁、三塁へは偽投が許されていた。つまり、投げるマネだけして、実際にはボールを投げなくてもOKだった。
    野球ファンなら、何度もそういうシーンを見たことがあると思うが、走者一、三塁で、三塁へのけん制球を投じるふりをして、実際には投げず、すぐさま、一塁へ向き直り、飛び出した一塁走者を刺す、あるいは一、二塁間に挟むというプレーがあった。長く野球をやっている人にとっては、それほど珍しくないプレーだが、それは今後見られなくなる。実際にやってしまうと、「ボーク」。三塁走者の進塁を許し、ムダに1点を与えるということになるので、要注意。
    簡単に書いてしまうと、それだけのことなのだが、特に高校野球などでは、ちょっとオーバーかもしれないが、「野球が変わる」のではないかと思っている。

    三塁手の守りのセンスが問われるようになりそう

     走者が一、三塁の時の、一塁走者は、右投手の場合、左足が上がったら躊躇なく、二塁に向かうケースが当然増えよう。投手が本塁に投げようが、三塁に投げようが、ほぼ、通常の盗塁と同じような感覚でスタートを切ればいいのだから、迷いはない。機動力を持つチームが相当有利になるような気がするのだが、どうだろうか。
    高校野球の常とう手段であるスクイズが絡んでくることを思うと、この一、三塁のケースでいかにうまく得点に結びつけるかが、これまで以上に大きな影響力を持つように思うのだ。
    また、けん制球を投げるということは当然そのけん制球を受ける選手が必要なわけで、三塁手の守備位置にも注目だ。走者が一塁だけの場合、一塁手は、特殊なケースを除いては、ほぼ、いつけん制球が来てもいいように、一塁ベースに着いた形で投手の投球を待つ。けん制球ではなく、本塁への投球が確認されたタイミングで、二、三歩ベースを離れ、打球に対しての守備態勢をとるのが常。

    では、三塁手は?
    上記の一塁手と同様に、ベースに着いて守り、本塁への投球が確認された時点で二、三歩ベースを離れる形をとるのか、それとも、けん制球に合わせて通常の守備位置から三塁ベースに入ってくるような形をとるのか、チームの方針、相手打者によって変わってくるのは当然だが、気になるところではある。
    三塁手は、メジャーでは別名「ホット・コーナー」と呼ばれるように、強烈な打球が来るポジションでもある。昨今、昔に比べて左打者の割合が増えて、ホット・コーナーは決して三塁手だけのニックネームではなくなってきたように思うが、それでも、右打席に入るパワフルなプルヒッターの存在は、三塁手を脅かすには十分だ。それらの強烈な打球への対応に加えて、牽制球に対する守り変化がこれまで以上に加わるわけだから、三塁手も大変だ。
    さらに、一、三塁で一塁走者がスタートを切っていた場合の二塁への送球の判断なども高度なものが要求されるはず。一言でいえば、これまで以上に、三塁手の守備のセンスが要求されるとみて、間違いない。
    プロ野球は言うに及ばずだが、いち早く開幕するセンバツ高校野球
    でも、三塁手の守り、動きに注目して試合を見るのも、おもしろいのではないか。また、同様に、攻撃側のパターンが増えてくるわけで、意外に、こんな場面での作戦が試合の流れを決定づけるようなシーンも見られるかもしれない。
    実は、今回紹介したルールの適用は、実は本場アメリカでは昨年のうちにスタートしている。野球のルールは、当然世界共通のルールの下で行われなければならないわけで、毎年、ルール委員会にて、オフシーズンの間に話し合って、改正などが決まるわけだが、この時期が問題で、新たに決まったことを、日本に持ち帰って、プロ、アマ問わずに全国の野球シーンに浸透させるまでには、あまりに準備期間が短すぎるのだ。
    そういう事情もあって、1年間の準備期間を設けて、翌年、(今回のケースでは今年から)日本球界では採用となるのである。
    まあ、今回のルール改正で、三塁手が戸惑った、野球が変わったというような話は聞こえてこないから、私の「心配」も杞憂に終わるような気がしないでもないのだけれど…。

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